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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)2913号 判決

原告

安部光力

被告

洲崎交通株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し金二、〇〇〇万円を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

原告は、昭和四四年一月五日午前〇時二〇分ころ、東京都江東区大島町一―三九―一九番地先路上を歩行中、被告保有の自動車(足立5え五七七一号、運転手大豆生田明)に衝突され、頭蓋骨折(脳幹部挫傷)、左恥骨骨折、尿路損傷、左腓骨小頭骨折の傷害を負い、その結果精神的慰藉料も含めて三、〇〇〇万円の損害を蒙つた。

よつて、原告は被告に対し損害金二、〇〇〇万円の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

原告主張の日時場所において、被告会社保有の自動車(足立5え五七七一号、運転手大豆生田明)が原告に衝突し、原告が傷害を負つたことは認めるが、その傷害の部位、態様、程度は不知。

原告の損害の主張については争う。

三  抗弁

1  (示談の成立)

原告、被告間に昭和四四年四月八日本件事故に関し次の内容の示談が成立した。

(一) 昭和四四年三月二四日までの治療費、付添看護費及び入院雑費は被告の負担とする。

(二) 被告は原告に対し右の外示談金一三万円を支払う。

(三) 右(一)、(二)の外、原告は被告に対し本件事故に関する請求を放棄する。

そして、被告は右(一)、(二)の支払をなしたので、右(三)により原告の本訴請求は理由がない。

2  (消滅時効の完成)

本件事故は昭和四四年一月五日発生したもので、同日から三年後の昭和四七年一月五日本件損害賠償請求権は時効により消滅している。

よつて、右の点からしても原告の請求は理由がない。

四  抗弁に対する認否

原告との合意の上示談が成立したことは否認する。原告は被告に対し保険の一時金を催促したものであつて、示談書の原告の印は、被告会社の事故係が、原告から五メートルも離れた場所で原告に背を向けて自ら買い求めてきた三文判を押したものである。

時効完成は争う。事故の発生は昭和四四年一月五日であるが、原告はその後三年間連続三回刑務所に入所し、思考力・判断力を失つていたものである。

第三証拠〔略〕

理由

昭和四四年一月五日午前〇時二〇分ころ、東京都江東区大島一の三九の一九番地先路上において、被告会社保有の自動車(足立5え五七七一号、運転手大豆生田明)が原告に衝突し、原告が傷害を負つたことは、当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によれば、原告は、昭和四四年一月五日、本件事故により、頭蓋骨折(脳幹部挫傷)、左恥骨骨折、尿路損傷、左腓骨小頭骨折の傷害を負い、東京都江東区寿康会病院に入院したが、右傷害のため初期意識障害が高度で、右顔面神経麻痺がみられ、同年三月一二日まで六七日間同病院に入院加療し、その間、同年二月上、中旬数回にわたり東京都墨田区東京都立墨東病院にも通院して検査等を受けたが、原告の自覚症状は、開眼(右眼瞼)障害、顔面右半面の麻痺で、他覚症状は、右上眼臉が下垂し運動障害があり、右顔面神経の領域に中等の麻痺がある(右口角から唾液が流出し、右顔面はかなりの知覚障害がある。)ことであり、この症状は昭和四四年三月二四日固定したことが認められる。

〔証拠略〕によれば、原告は昭和四四年四月七日までには被告会社が原告に衝突した前記自動車の保有者であることを知つたものと認められる。

以上の事実によれば、原告は遅くとも昭和四四年四月上旬には本件事故による損害及び加害者を知つたものと認められるところ、その後三年間以上経過した昭和四九年四月一六日に本件訴が提起されたもので、その間時効完成を妨げる事由があつたことの主張、立証はないので、本件事故による原告の損害賠償請求権は時効により既に消滅した。

よつて、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大前和俊)

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